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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)146号 判決 2000年12月12日

原告

サニバックバキュームテクニックゲーエムベーハー

代表者

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

被告

特許庁長官【D】

指定代理人

【E】

【F】

【G】

【H】

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成8年審判第8163号事件について平成10年12月25日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

【I】は、1991(平成3)年4月23日及び同年11月11日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、発明の名称を「排泄物生成ユニットの排泄物用排出システム」(後に「車両内トイレ用排泄物排出システム」と補正。)とする発明につき、1992(平成4)年3月19日を国際出願日(翻訳文提出日平成5年10月21日)として特許出願(平成4年特許願第506372号)をした。原告は、1993(平成5)年8月19日に【I】から上記発明について特許を受ける権利の譲渡を受け、同年10月21日上記譲渡について特許庁長官に届け出た。原告は、平成8年1月25日前記特許出願について拒絶査定を受けたので、同年5月24日に拒絶査定不服の審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成8年審判第8163号事件として審理した結果、平成10年12月25日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を平成11年1月27日原告に送達した。なお、出訴期間として90日が付加された。

2  特許請求の範囲請求項1(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)

車両内のトイレに設置された排泄物生成ユニット(1)と、前記車両内に設けられている圧縮空気系を利用して低圧を発生させる小型のエジェクタ装置(6)と、該エジェクタ装置(6)によって低圧にされ、該低圧による吸引力により前記排泄物生成ユニット(1)から第1の導管(7)を介して排出された排泄物を一時的に収容する、高々数リットルの容量を持つ中間容器(17)と、前記圧縮空気系からの圧縮空気により前記排泄物生成ユニット(1)内から第2の導管(10)を介して押し出された排泄物を収容する大容量の収容器(9)と、前記排泄物生成ユニット(1)から前記中間容器(17)への排泄物の吸引のタイミングと、前記中間容器(17)から前記収容器(9)への排泄物の押し出しのタイミングとを制御するバルブ(5、8、20)とを備え、少なくとも前記エジェクタ装置(6)、前記中間容器(17)、前記バルブ(5、8、20)及び前記第1、第2の導管(7、10)が前記排泄物生成ユニット(1)の下に又は前記排泄物生成ユニット(1)の便座内に収納してあることを特徴とする車両内トイレ用排泄物排出システム。

3  審決の理由

別紙審決書の理由の写しのとおり(ただし、5頁7行目から8行目にかけての「特公昭62-34578号公報」は「特開昭55-61625号公報」の、5頁12行目の「第6欄第10~16行」は「3頁右上欄第6~12行」の、各誤記と認める。)、本願発明は、ドイツ連邦共和国(DE)特許出願公開(A1)第3932893号明細書(以下「引用例1」という。)、特開昭55-61625号公報(以下「引用例2」という。)、特開昭50-98151号公報(以下「引用例3」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認定判断した。

4  本願明細書の記載

本願明細書には、次の記載がある。

(1)  「本発明は、排泄物生成ユニット(特に車両内のトイレの便器)と低圧発生装置と中間容器と収容器とを有し、これらがバルブを備えた配管を介し互いに接続してある排出システムに関するものである。かかる公知の排出システム(ドイツ公開特許公報第3932893号)では収容器及び中間容器から空気及びガスを取り出して圧力容器に入れられる。更に圧力容器は中間容器及び収容器内の真空とともに排泄物が収容器内に達するようにする。しかし真空発生器と圧力容器はこのことを達成するのに十分な大きさに寸法設計することができず、公知システムがそもそも機能するかどうか懸念がある。収容器の容量が比較的大きいので真空ポンプも比較的大きく構成しておかねばならないであろう。いずれにしてもこの大きな容量のために、排泄物生成ユニットはこの場合-可能であるとしても-比較的大きな時間間隔を置いてのみ利用することができよう。」(翻訳文1頁14行~2頁6行)

(2)  「本発明の目的は冒頭指摘した種類の排出システムを一層簡単に構成し、更には技術的に必要な支出の点でも簡素化することである。・・・まず重要な点として、排気しなければならない中間容器の容量が比較的小さく、数リットルにすぎないので、比較的小型の真空発生装置であるエジェクタ装置を使用することができる。このエジェクタ装置は、車両内に元々設けられている圧縮空気系を利用して低圧を発生させることのできる装置である。中間容器が十分に低圧下に置かれたなら排泄物は吸入し、圧縮空気の導入により中間容器から収容器に押し込むことができる。」(翻訳文2頁10行~18行、1993年2月15日提出の補正書の翻訳文2頁1行~8行、平成7年10月20日付け手続補正書1頁3行~6行)

(3)  「本発明によれば収容器及びそこに通じた導管に至るまですべての導管、すべてのバルブ、中間容器及び真空装置が便器の間近にあり、即ち便座の範囲か又は便器の下にある。このことが格別重要となるのは車両内に設置する場合であり、この場合自ずとスペース上の問題が現れる。」(1993年2月15日提出の補正書の翻訳文2頁12行~3頁2行)

(4)  「本発明の好ましい実施態様では望ましくは軌条車両に元々設けてある圧縮空気系が利用され、機械的可動部品を備えたポンプが必要でなく、エジェクタを使用することができる。このことは機械的ポンプの代わりに単にバルブが必要であることを意味する。更に軌条車両の搭載回路網が比較的高い圧力を用意し、一方で希望する高い真空出力が可能であり、他方で発生する排泄物を中間容器から排出容器内に搬送する過程も確実に行うことができる。」(翻訳文4頁9行~16行)

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由1ないし3は認める。同4は、相違点2についての判断(10頁12行~17行)及び相違点4についての判断(11頁8行~15行)を認め、その余を争う。同5は争う。

審決は、相違点1、3、5についての判断を誤ったものであり、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(相違点1についての判断の誤り)

(1)  審決は「通常、一回で生成される排泄物の量は、せいぜい数リットル以内であることを勘案すると、そのような排泄物の量に合わせて中間容器の容量を高々数リットルに設計することは、当業者であれば容易になしうる設計的事項といわざるを得ない。」(10頁6行~11行)と判断した。

しかし、中間容器の容量の決定は、排泄物の量のみによって行うことのできるような単純な事柄ではなく、これを行うには、排泄物に対する中間容器の吸引力や排泄物を中間容器から収容器に押し出す力などをも考慮しなければならない。

そして、「中間容器の吸引力」は、単に中間容器の真空度のみで決まるものではなく、吸引が完了するまで必要な真空度を維持することのできる中間容器の容量及びその真空度によって決まるのである。

すなわち、本願発明でいえば、排泄物の吸引が開始される前の段階では、バルブ(5)は閉じられ、中間容器(17)はエジェクタ(6)によって排気され、バルブ(20)、(8)は閉じられている。したがって、排泄物を排泄物生成ユニット(1)から中間容器(17)に吸引する際には、吸引が完了するまで中間容器の吸引力を維持しなければならない。排泄物の吸引が開始されると中間容器の真空度は低くなり最終的には大気圧になるのであるが、排泄物を完全に吸引するためには、排泄物の吸引完了と同時に大気圧になるのでなく、排泄物の吸引が終了したときにも、ある程度の真空状態(吸引力)が維持されていることが現実的には必要である。

このように、中間容器の吸引力は、中間容器の容量及びその真空度に依存するのである。そして特に、エジェクタ(6)に供給される圧縮空気の空気圧を自由に変更できない構成のもの(例えば、車両に元々備わった圧縮空気システムを利用するもの等)においては、中間容器の吸引力はほとんどその容量に依存すると言っても過言ではない。したがって、中間容器の吸引力を十分な大きさに維持するには、中間容器の容量を「一回で生成される排泄物の量」よりもはるかに大きく設定しなければならない、というのが、本願出願当時の技術常識である。その点、本願発明にあっては、その技術常識を覆し、中間容器の吸引力を十分に維持しながらも中間容器の容量を可及的に小ならしめたところに、発明の進歩性が認められるのである。

(2)  本願発明の、(a)中間容器の容量が「高々数リットル」であるという点、(b)エジェクタ装置が「小型」であるという点、及び(c)中間容器とエジェクタ装置を排泄物生成ユニットの間近(排泄物生成ユニットの下又は便座内)に収納するという点は、いずれも引用例に開示も示唆もなく、まして、それらを体系的に組み合わせるという発想(すなわち、「高々数リットル」の中間容器と「小型」のエジェクタ装置とを排泄物生成ユニットの間近に収納することで、「排出システム全体の小型化」と「中間容器の有効な吸引作用」とを両立しようという発想)については微塵も予測できるはずがない。

2  取消事由2(相違点3についての判断の誤り)

引用例2には、鉄道車両の圧縮空気によって真空発生エジェクタ(5)を作動させて下水管(2)、下水管を空にする装置(3)、及び補助タンク(15)を真空にすることは記載されているが、圧縮空気によって汚物を収集室(13)から収集タンク(4)に押し出すことは記載されていない。すなわち「圧縮空気を利用し、本願のようにすること」は記載されていないから、これは容易に想到できるものではない。

3  取消事由3(相違点5についての判断の誤り)

本願発明は、車両内の圧縮空気を利用すること(相違点3に係る構成)によって、引用例1記載の発明の圧力容器(17)や圧縮空気容器(13)を除去することができ、「中間容器(17)」を「高々数リットル」にすること(相違点1に係る構成)によって、エジェクタ装置は小型とすることができ、その結果、相違点5に係る構成とすることができるのである。

本願発明は、これらの点を有機的に結合して新たな技術的思想を創作したものであって、このような複数の構成要素を体系的に組み合わせたことに進歩性があるのである。

第4被告の反論の要点

1  取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について

(1)  引用例1記載の発明も、排泄物に対する中間容器の吸引力や排泄物を中間容器から収容器に押し出す力を当然に考慮した排出システムである。

排泄物に対する中間容器の吸引力や排泄物を中間容器から収容器に押し出す力の大きさが、中間容器に低圧を発生するエジェクタ装置の能力や圧縮空気の圧力に大きく依存するものであることは技術常識である。そして、必要な「排泄物に対する中間容器の吸引力」及び「排泄物を中間容器から収容器に押し出す力」に見合った、低圧を発生するエジェクタ装置の能力や必要な圧縮空気の圧力を確保するよう考えることは、通常、当業者にとって困難なことではない。

(2)  本願発明の技術分野の当業者は、車両内トイレ用排泄物排出システムの当業者、すなわち、車両内トイレ技術と真空技術に通じた者であるから、中間容器の吸引力が中間容器の容量及びその真空度に依存するものであることは当然に認識していることである。

引用例1記載の発明の中間容器の真空度がどの程度であるかは記載がないが、例えば引用例1記載の発明について原告が主張する「吸引力を維持するために中間容器の容量を十分な大きさに設計する必要が生じる」ことが正しいとするならば、それは中間容器の真空度が小さいので中間容器の容量を大きくせざるを得ないからである。

ところが、中間容器の真空度を空気の排出能力の高いエジェクタ装置により高めれば、中間容器の容量が小さくとも排泄物を吸引できることは、当業者には自明であるから、エジェクタ装置を小型とする際に、中間容器の小容量化に伴う吸引力の低下を考慮して、排出能力の高いエジェクタ装置とし、中間容器の吸引力を確保することは、当業者ならば当然に行うことである。

(3)  原告は、中間容器とエジェクタ装置とを排泄物生成ユニットの間近(すなわち、排泄物生成ユニットの下、又は便座内)に収納することが「中間容器の有効な吸引作用」に結びつくと主張する。

しかし、当業者ならば、排泄物が中間容器に円滑に吸引されるように、中間容器・エジェクタ装置・排泄物生成ユニット等の位置関係を考慮することは当然であって、車両内に設けられている圧縮空気系を利用する小型のエジェクタ装置を使用しても中間容器の吸引力が不足し排泄物の円滑な吸引がなされないときには、例えば、①排泄物生成ユニットと中間容器とを繋ぐ導管を短くして、中間容器に吸引される導管内の空気を少量にして、中間容器に吸引される空気量を減らしたり、②排泄物生成ユニットの下に中間容器を設けて、排泄物及び排泄物生成ユニットで使用した水を重力で中間容器に落下させて、必要とされる中間容器の吸引力レベルを軽減することは、当業者が容易に想到できることである。

2  取消事由2(相違点3についての判断の誤り)について

相違点3は、車両内に設けられている圧縮空気系からの圧縮空気を利用するか否かを対象にしているのであって、汚物を収集室(13)から収集タンク(4)に押し出す点については対象としていない。そして、車両内のトイレ用排出システムにおいて、エジェクタ装置用の圧縮空気として、他の用途で用意されている圧縮空気系からの圧縮空気を利用することは引用例2に記載されているから、相違点3に係る構成を得ることは容易である。

3  取消事由3(相違点5についての判断の誤り)について

(1)  車両内に設けられた圧縮空気系の圧縮空気を利用する構成の採用が容易であることは前記2で述べたとおりである。上記構成を採用した場合、これに伴い、引用例1記載の発明の圧力容器(17)や圧縮空気容器(13)が除去できることは当然である。

(2)  「中間容器(17)」を「高々数リットル」にすることが容易であることは、前記1で述べたとおりである。

(3)  車両内のトイレ用排出物排出システムの技術分野の当業者は、一般に、排出システムの構成要素の小型化や合理化を図る際には、各構成要素のコンパクトな配置や適切な収納について考慮を払いながらシステムを総合的に開発・設計するものである。したがって、相違点5についての審決の判断に誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について

(1)  弁論の全趣旨によれば、列車の広さには限度があるので、列車用のトイレ設備については、従来から、できるだけ小型のものとしたいという技術的課題が存在したことが認められる。そうすると、列車内のトイレを使用する者が一回にトイレ便器から排出する排泄物の量を考慮して、中間容器の容量を高々数リットルに設計することは、当業者が容易になしうる設計的事項というべきである。

なお、審決は、「通常、一回で生成される排泄物の量」について、「せいぜい数リットル以内」(10頁6行~7行)と認定するが、数リットルもの排泄物を排出する者が存在するとは考えられない。むしろ、乙第1号証(引用例2)によれば、引用例2には、「有利な設計は・・・収集室の部分をその容量が通常の下水の一回の放出量とほゞ対応するかもしくは少し大きいだけに寸法を決めることによって得られる。真空便所を空にするためには1~2 の容量で十分である。・・・下水放出の最大容量は下水発生ユニットの容量で決まる。」(10欄12行~11欄2行)との記載があることが認められ、この記載によれば、一回の排泄量はせいぜい1~2 であると認識されていたことがうかがわれるところである。

(2)  原告は、中間容器の吸引力は、中間容器の容量及びその真空度に依存し、特に、エジェクタ(6)に供給される圧縮空気の空気圧を自由に変更できない構成のもの(例えば、車両に元々備わった圧縮空気システムを利用するもの等)においては、中間容器の吸引力はほとんどその容量に依存すると言っても過言ではないから、中間容器の吸引力を十分な大きさに維持するには、中間容器の容量を「一回で生成される排泄物の量」よりもはるかに大きく設定しなければならない、というのが、本願出願当時の技術常識であり、本願発明は、その技術常識を覆し、中間容器の吸引力を十分に維持しながらも中間容器の容量を可及的に小ならしめたものであると主張する。

ア しかし、仮に、中間容器は、吸引が完了するまでの間必要な真空度を確保する必要があるから、その容量が一回で生成される排泄物の量と同程度では、吸引しきれないおそれがあって不都合である、というのが技術常識であったとしても、それを一回で生成される排泄物の量よりも「はるかに大きく」設定しなければならないということまでが技術常識であったと認めるに足りる証拠はない。

イ 弁論の全趣旨によれば、中間容器の真空度は、中間容器に低圧を発生するエジェクタ装置の能力や圧縮空気の圧力に依存するものであることが技術常識であることが認められるから、当業者は、中間容器を「高々数リットル」まで小さくしようとする場合には、当然、小さくすることによる吸引力の低下を考慮して、排出能力の高いエジェクタ装置や、車両内の圧縮空気系として圧力の高いものを採用する設計を考慮するものと認められる(本願発明は、「車両内に設けられている圧縮空気系を利用して低圧を発生させる小型のエジェクタ装置(6)」を使用するものではあるが、エジェクタに供給される圧縮空気の空気圧や、エジェクタ装置の能力については、特段の限定を加えていないから、このようなものも排除していないことが明らかである。そうである以上、本願発明の容易推考性は、上記のようなものが利用できることを前提として推考する場合の問題として、検討されなければならないものというべきである。)。

このように、排出能力の高いエジェクタ装置や、車両内の圧縮空気系として圧力の高いものの採用が排除されていないとの前提に立って考えた場合、中間容器の容量を、一回で生成される排泄物の量よりも「はるかに大きく」設定しなければならないということまでが技術常識であったとは、なおさら認めることができないのである。

ウ そして、一回に数リットルもの排泄をする人がいるとは考えられないから、中間容器の容量が「高々数リットル」であれば、それは、一回で生成される排泄物の量よりも相当に多いというべきものである。したがって、中間容器の容量を「高々数リットル」とすることを、技術常識を覆したものと認めることはできない。

(3)  原告は、本願発明の、(a)中間容器の容量が「高々数リットル」であるという点、(b)エジェクタ装置が「小型」であるという点、及び(c)中間容器とエジェクタ装置を排泄物生成ユニットの間近(排泄物生成ユニットの下又は便座内)に収納するという点を体系的に組み合わせるという発想(すなわち、「高々数リットル」の中間容器と「小型」のエジェクタ装置とを排泄物生成ユニットの間近に収納することで、「排出システム全体の小型化」と「中間容器の有効な吸引作用」とを両立しようという発想)については微塵も予測できるはずがないと主張する。

しかし、上記(a)、(b)、(c)の三点を組み合わせることを妨げるような事情があったことはうかがえない。すなわち、抽象的には、「排出システム全体の小型化」と「中間容器の有効な吸引作用」とは、相反するものであるかもしれないけれども、具体的に、(a)中間容器の容量を「高々数リットル」にして(b)エジェクタ装置を「小型」にするという程度まで「排出システム全体を小型化」した場合に、「中間容器の有効な吸引作用」が失われるであろうと考えられていたとは、本件全証拠によってもこれを認めることができない。

そうである以上、上記(a)、(b)、(c)の三点を組み合わせるとは、これらを単に寄せ集めればできることであって、上記(a)、(b)、(c)の各構成に想到した場合には、当業者にとって、格別困難はなかったものというべきである。

2  取消事由2(相違点3についての判断の誤り)について

甲第5号証(引用例2)によれば、引用例2には、車両内のトイレ用排泄物排出システムにおいて、エジェクタ装置用の圧縮空気として、他の用途で用意されている圧縮空気系からの圧縮空気を利用することが記載されていることが認められる。したがって、引用例1、2に接した当業者は、引用例1記載の発明のトイレ用装置において生成された圧縮空気に代えて、車両内に設けられている圧縮空気系からの圧縮空気を利用することに、容易に想到し得たものと認められる。

原告は、引用例2には、鉄道車両の圧縮空気によって汚物を収集室(13)から収集タンク(4)に押し出すことは記載されていないと主張する。しかし、汚物を収集室(13)から収集タンク(4)に押し出すことは、相違点3に係わりのある問題ではない。なお、甲第4号証(引用例1)によれば、引用例1には、「次の段階において吹出し弁19が開放し、その吹出し弁は圧力容器17内に蓄えられている圧縮空気を中間容器6内へ流出させる。このプロセスが圧力センサによって監視されて、圧力が予め設定されたように上昇しない場合には、吹出しがすぐにオフにされて、その場合にシステムの機能が中断される。システムが予め定められたように機能して、中間容器内に予め定められた圧力値が達成された場合には、吹出し弁19が閉鎖されて、中間容器6と収集容器9とを接続させる排出弁8が開放される。排出弁8は、中間容器6内に予め定められた圧力降下が生じた場合には、すぐにまた閉鎖される。」(翻訳文3枚目18行~25行)との記載があることが認められ、この記載によれば、引用例1記載の発明は、圧縮空気により排泄物を中間容器から収納容器に押し出すものであることが認められる。したがって、この点は、本願発明と引用例1記載の発明の一致点というべきである。審決は、これを一致点として摘示していないから、この点において誤りはあるものの、そのことは、審決の結論に影響を及ぼすものではない。

3  取消事由3(相違点5についての判断の誤り)について

(1)  トイレ用排泄物排出システムの構成要素は、できるだけ排泄物生成ユニット(便器)の近くに設けることが当然に有利であり、しかも、水の流れや排出物の落下等からすると、排泄物生成ユニット(便器)の下に設けることがもっとも合理的であることは、当業者でない者にとっても明らかである。ちなみに、甲第4号証によれば、引用例1には、「すべての必要な部分を、たとえばWCユニットの外側ケーシングの内部に収容することが、特に効果的であることが明らかにされている。というのは、本発明に基づくシステムの要素は、従来のシステムのユニットと同様に小さいスペース内に配置することができるからである。スペース需要の例として、負圧によって中間容器まで案内される排出物質の移送距離は、きわめて短く、たとえば水平および垂直方向に20から30cmとすることができる。」(翻訳文4枚目10行~16行)との記載があることが認められ、この記載からも、当業者がトイレ用排泄物排出システムの構成要素を便器の近くに設けることや、これを便器の下に設けて排出物質を下方向(垂直方向)に移送することに想到し得たことをうかがうことができる。

したがって、当業者は、引用例1記載の発明について、相違点5に係る本願発明の構成とすることに、容易に想到することができたものと認められる。

(2)  原告は、本願発明は、車両内の圧縮空気を利用すること(相違点3に係る構成)によって、引用例1記載の発明の圧力容器(17)や圧縮空気容器(13)を除去することができ、「中間容器(17)」を「高々数リットル」にすること(相違点1に係る構成)によって、エジェクタ装置は小型とすることができ、その結果、相違点5に係る構成とすることができるのであり、これらの点を有機的に結合して新たな技術的思想を創作したものであると主張する。右は、相違点1、3に係る本願発明の構成が得られなければ、相違点5に係る組合せを行うことが困難であったとの趣旨の主張を含むものと解される。

ア しかし、相違点1、3に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものであることは前認定のとおりである。そうである以上、相違点5に係る本願発明の構成を採用することに困難があったとは認められない。

イ また、便器の下に広い空間がない場合には、「中間容器(17)」を「高々数リットル」にしなければ、中間容器を始め、エジェクタ装置、バルブ及び第1、第2の導管を便器の下に収納することが困難であろう。しかし、本願出願時において、普通の車両用トイレの便器の下の空間が、「中間容器(17)」を「高々数リットル」にしなければ、中間容器を始め、エジェクタ装置、バルブ及び第1、第2の導管を便器の下に収納することが困難であるほど小さいものであったことを認めるに足りる証拠はない。また、本願出願当時にも、二階建ての車両(したがって、二階の便器の下には広い空間をとることができる。)や高い床の車両が知られていたことは、当裁判所に顕著である。したがって、本願発明の、相違点1に係る構成と、相違点5に係る構成に、必然的に原告の主張するような関係があるものと認めることはできない。

原告の主張は、ある特定の限定(例えば、「トイレの便器の下の空間が、特定の限度以下に小さい」とか、「エジェクタ装置の能力や車両内の圧縮空気系の圧力が特定の限度以下である」とかという限定)の下では、妥当する場合があるのかもしれないが(ただし、その場合に、原告の主張する困難を、具体的にどのように、すなわち、どれだけの能力のエジェクタ装置や圧縮空気系の圧力を前提として解決するのかについては、本願明細書に開示があるとは認められない。)、そのことをもって、上記のような限定のない本願発明の構成を、想到困難であったということはできないのである。

4  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

第6よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)

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